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『私の履歴書』(25) 大橋光夫 (昭和電工最高顧問)

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自国主義の広がり憂う  『五井平和財団の活動に共鳴』


 「紛争なき世界」  

 いくつかの団体で役員を務めているが、いつも心が洗われ豊な気持ちになるのは、理事として関わる公益財団法人、五井平和財団の活動だ。世界が急速に内向き志向を強めるいま、国家間の緊張の高まりにどう対処するか。経済人としての思いが募る。

 五井平和財団は1980年に逝去した哲学者、五井昌久氏が主導した祈りによる世界平和運動を原点とする。個々の宗教と一線を画し、日本の精神性を大事にしながら国際社会の乱れや紛争を防ごうとする運動だ。

 五井氏には生前お会いした。底抜けに明るく全てを包み込むような人だった。東洋思想の第一人者で歴代首相が師と仰いだ哲学者。安岡正篤氏とは肝胆相照らす仲だった。

 「五井さんは情の人である。人間は清らかさと明るさがなければならぬ。五井さんはそこが人を引きつけるのだろう」と安岡氏は記した。
 富士製鉄の永野重雄、日本精工の今里広記、伊藤忠商事の越後正一、日本生命保険の弘世現、住友軽金属工業(現UACJ)の田中季雄、義父で富士銀行の岩佐凱実の各氏ら十数人の経済人が「五井会」を作って応援した。かっては政治家、経済人を問わず各界のリーダーが高い精神性を保つ心の余裕があった。

 今の政治家は小選挙区制の下で次の選挙の勝利だけを考える。企業経営者は機関投資家など株主の監視下で短期の決算数字だけを考え、長期的視点での発想に欠けるように感じる。先人の問題意識を十分に受け継ぐ人が少ないように思える。やや残念だ。

 五井氏の精神を引き継ぎ財団が設立されたのが99年。ドイツとフランスが恩讐を超え、欧州単一通貨ユーロを誕生させた年だ。五井氏の養女、昌美さんが会長を務め、西園寺公望氏の曽孫、裕夫氏が理事長を努める。夫妻とは40年を超す交際になる。新鮮で未来に向けた希望に満ちた話題に花が咲く。貴重な心の友だ。

 五井平和財団は2004年に国連経済社会理事会の特別協議資格を持つ非政府組織(NGO)として承認を受けた。06年には国連教育科学文化機関(ユネスコ)との公式関係を持つ財団に認定された。

 毎年、世界平和に貢献した人を「五井平和賞」として表彰する。00年の第一回の生態学者ジェームズ・ラブロック氏をはじめ、ゴルバチョフ旧ソ連大統領、米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏らが表彰されている。

 理事を務める元国連事務次長の明石康さんは「学生や若者との連携や協力を重んじて平和意識を高めようとする財団の役割は重要だ」と、数々の国際紛争に関わってきた経験をもとに話す。

 英国が欧州連合(EU)からの離脱を決め、今年の欧州各国の選挙は反EU政党の伸長がが焦点になっている。トランプ米大統領は自国優先を鮮明にし、「自由を求める者は誰でも来たれ」という建国以来の精神が揺らいでいる。

 古代ローマ五賢帝の時代は欧州、中東、アフリカの広範な地域で300年も平和が続いた。統治者のローマ人が属洲とした近隣国の人に極めて寛容だったことと、軍縮と同時に属洲での公共投資を重視したことが理由だ。

 国際社会は不寛容と一国主義に向かうリスクに直面する。だが原点から平和を考え、訴え続ければ、紛争なき世界への道はきっと開ける。
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日本経済新聞:2017年2月26日、「私の履歴書」(25)。から

「五井平和財団コナ-」

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