「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました」
文章には能動態と受動態がある。例えば、一般には「コロンブスは1492年にアメリカ大陸を発見した」と表記する。しかし大陸側から見れば別の表現になる▼「コロンブスにより発見された」。遠い昔から当地に住み独自の文化を築いてきた先住民には、新発見自体が事実誤認であり、侵略を招いた負の歴史でもある▼
同じ文脈で強く印象に残る一文がある。2013年度新聞広告コンテストで最優秀賞に輝いた作品だ。「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました」▼鉛筆で書かれたであろう文字はたどたどしい。赤鬼の子は右手に金棒、トラ皮のパンツをはく。その頬を涙が伝う。そして警句が添えてある。「一方的な『めでたし、めでたし』を生まないために」▼
広告のテーマは「しあわせ」。制作者は「ある人に幸せを感じることも反対の立場や別の時代だったらそう思えない。視点によって幸せは変わる」とコメントしている▼概して権力を有する人は能動的思考が強い。
ミサイル開発に執着する北朝鮮の指導者は、巨額の発射費用が人民の生活を脅かすことなど無頓着のようだ▼移民締め出しなど放言が相次ぐ米大統領は、過激な白人至上主義者を養護し非難の嵐。
日本の首相も上から目線で不誠実な発言が目に余る。指導者たるもの、受動態の視点を持ち人の痛みを知ることが肝心である。
(2017年8月27日:福井新聞 越山若水より)
「世界人類が平和でありますように」はすべての人を幸せに導く。(I)