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真実に生きる。(真実に生きる 自分の言葉と歩む天皇):月刊新聞「世界平和の祈り」より

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 四月の朝日新聞に憲法学者の蜷川恒正・日本大学教授が「真実に生きる 自らの言葉と歩む天皇」という文章を寄せている。その中で蜷川氏は、天皇陛下が2013年10月27日、熊本県水俣市を初めて訪れ、水俣患者の話を聞いたあとに述べたお言葉を紹介している。
 「やはり真実に生きるということができる社会をみんなで作っていきたいものだと改めて思いました」「今後の日本が、自分が正しくあることができる社会になっていく。そうなればと思っています。みながその方に向かって進んでいけることを願っています」
 天皇陛下は通常、行事で述べる「お言葉」は、各方面に配慮して事前に作成なさるが、蜷川氏は、これは「事前に用意された「おことば」ではない。天皇が返礼に自らの思いを述べるのは異例である」と述べている。
 水俣病は196年に発見された公害病である。その原因物質が新日本窒素肥料の工場から排出された水銀であることは、当初から疑われていたが、それが科学的にも確認されたのは1967年であった。原因が解明されなかったので、患者は肉体的に苦しむだけでなく、社会的な差別もうけた。企業や国はなかなか責任を認めず、被害者への補償と救済が遅れたが、2004年に最高裁が企業と国の責任を認めた。しかし、水俣病患者と認定されなかった人々の不満は残っているし、患者や水俣出身者への差別もいまだ続いているという。
 陛下のお言葉の中には、今の日本社会は「真実に生きるということ」「自分が正しくあること」が困難な社会である、というニュアンスが含まれているように感じられる。
 たしかに、国や大企業が公害の責任を嘘と言い逃れてごまかすのは、真実に生きることではないだろう。また、病気や障害を背負った人々が、差別や偏見の目にさらされていては、自分が自分として正しく生きることも困難であろう。
 蜷川氏は「『真実に生きる』とは、あるべき自分の生き方に忠実に生きることであり、それを天皇は、すべての個人に励まし、それができる社会へと向かう努力を自他に求めたのである」と述べている。
 このお言葉はまた、陛下ご自身へのいましめでもあろう。陛下ほど日本国憲法に忠実で、誠実な生き方を追求なさった方はおられない。陛下は常に災害の被害者、傷害を抱えた人々に寄り添い、励まし、国民のすべての幸福を祈ってこられた。毎年10月には水俣に思いをお寄せしているという。それが「象徴天皇」としての首尾一貫した歩みであった。老齢によって、そのありか方が困難になったとお感じになられての退位のご意向であると拝察申し上げる。
 陛下のお言葉が尊重されることを心から願う次第である。       (N)

月刊新聞「世界平和の祈り」平成29年7月号エッセイより

 

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